Q3について

ページの一番下に、解説をおきましたので、ぜひお読みください。

(3)「子どもの貧困」の解消について

 国は、2013年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を制定し取り組みを進めていますが、埼玉県では、「貧困の連鎖解消に向けた」取り組みとして、子どもの居場所作り、学習支援、支援者養成などを中心に施策を展開しています(注3)。こうした県の取り組みについての評価をお願いします。また、県のさらなる取り組みとして、どのようなものが考えられるでしょうか? 具体的に教えてください。

 

(注3) https://www.pref.saitama.lg.jp/a0607/shoushi/kodomoshokudou.html


大野候補

 埼玉県は、ご指摘の通り、子どもの居場所づくり、学習支援、支援者育成などに、他都道府県に先駆けて取り組んでおり評価しています。

 そうした取組みをさらに効果的にしていくためには、まずは、県内すべてのステークホルダーを招いて子供の貧困対策計画を策定すること。NPO等と連携し、団体の垣根を超えた横の連絡と実効的な施策を推進できるプラットフォームを作ること。中学校における不登校の対策を進め、高校中退を防ぐ取組みをさらに拡充し、貧困の連鎖を断ち切ることが必要と考えます。

青島候補

 子供の貧困率は13.9%と言われています。貧困は連鎖することが特徴として挙げられます。子供が生まれた環境で将来の可能性を左右されることがあってはなりません。

 県が進めてきた中学生への学習支援のアスポート事業や、小学生への学習と体験活動を実施するジュニアアスポート事業は一定の効果をもたらしていると思います。子供の居場所づくりも埼玉県内の数は大きく伸びていると思います。

 今後の更なる取り組みとしては、ジュニアアスポート事業を県内全域に拡大することだと思います。小学生の時期から自己肯定力を育む取り組みを積極的に進めます。子供の居場所づくりについては、身近に歩いて行ける場所にますます作られるよう支援を進めます。

(参考)行田邦子さん

 埼玉県がこれまで進めてきた体系的な施策による「貧困の連鎖解消」への取り組みは、不登校率や高校中退率の改善といった数値で表れており、一定の評価をしています。これは、担当職員個々の熱意と、事業を実質的に担っている民間団体との長年にわたるイコールパートナーシップによるものと受け止めています。

 今年6月に子どもの貧困対策推進法が改正され、貧困対策大綱の見直しが閣議決定される見通しです。県としても貧困実態調査の結果を踏まえ、貧困状態の子どもや家庭の実態に即した財源・資源の配分を行うべきです。学習支援の「アスポート」事業はアウトリーチと訪問支援のさらなる充実を期待します。さいたま市では長年にわたり同様の学習支援事業の委託先が今年度から大手学習塾に変わり、大きな混乱が起きていると聞いております。福祉的側面の強い子どもの貧困対策事業において、委託金の安さだけで競う一般競争入札は事業の選定手法としてなじみません。県としても、対象児童生徒の最善の利益を考えた制度設計にしていくことはもとより、〝資金提供者〟たる県民も納得できるソーシャルインパクトを提示していくことや、ボランティアの皆さんの満足度を高めることなど、その成果指標や支援の評価軸を明確にし、子どもたちのためにしっかりと事業を継続していく必要があります。

 県の職員が受け身では、子どもの貧困対策は進みません。県の職員が、見えないところ、聞こえにくい声に意識を研ぎ澄ませる姿勢が大切です。


【解説】

 回答について述べますと、3者とも、上田県政で進められてきた子どもの貧困解消のための施策である「アスポート事業」に対しては好意的な評価をしているという点で一致していますが、どこに着眼しているかということでは、違いがあります。大野候補は、先駆的な取り組みが行われているという点を評価しており、青島候補は、やや判然としないところもありますが、「子供の居場所」の数で評価をしているとみなせます。行田さんは、数値そのものは掲げられていませんが、「不登校率や高校中退率の改善」を挙げています。

 今後の展開についても、3者には違いがあります。アスポート事業の展開として、青島候補は県内全域への拡大、大野候補はNPOなどとの連携によるプラットフォームづくり、行田候補はアウトリーチ訪問支援の充実をあげています。

 またそれ以外に、青島候補は「自己肯定力を育む取り組み」、大野候補は「子どもの貧困対策計画の策定」、行田候補は「貧困実態調査の結果を踏まえた財源・資源配分」に言及している部分に特色があります。

 

 しかしながら、「子どもの貧困」について無視できない事柄があります。それは、子ども自身が生まれ、暮らしている環境、世帯の経済状態です。厚生労働省は、2009年から相対的貧困率を公表し、年次推移のグラフをウェブサイトに掲げています。「国民生活基礎調査」が3年毎に行う「大調査」によるものです(ちなみに、今年は、大調査の年に当たっています)。「子どもの貧困率」も、この調査から計算されているのです。これをみていただくと、政策として何が必要なのか、あるいは、どういうところに光を当てなければならないのか、歴然としていると思います。

 このグラフは、h28調査によるもの(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/03.pdf)で、子どもの貧困率が下がった(他の貧困率も下がりました)として、話題になったものですが、誰がみても気がつく(変わらぬ)特徴があります。一番上にきているグラフの位置と数値です。このグラフは、他のグラフとは同じ軸(左軸)で作られていません(数値については、右軸をみなければなりません)。左軸の最大値は35%、右軸の最大値は65%です。すべてを同じ縮尺?で作成したら、どんなグラフになるか、想像してみてください)。

 この特異なグラフは、何を示しているのか。「子どもがいる現役世帯」のうち、「大人が一人」世帯の貧困率、すなわち、「ひとり親世帯」の貧困率です。「ひとり親世帯」のマジョリティは、母子家庭ですので(「平成28年度 全国ひとり親世帯等調査」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000188138.html)、母子家庭の経済状況、生活状況を改善する政策があれば、子どもの貧困という問題は、大きく改善されると考えるのは、当然ではないかと思います(右の調査によりますと、母子家庭の平均年間収入は、243万円、父子家庭のそれは、420万円となっています。いずれも、前回調査よりも増加しています)。埼玉県のジェンダー平等の推進を掲げる私たちが、この問題について質問したのは、このような理由からでした(もちろんこの点は、埼玉県に限定される問題ではなく、全国的な問題です)。日本の母子家庭の就業率はとても高いです(戦後一貫して7〜8割程度をキープ)。それなのに、このような高い貧困率を示してしまう(日本のシングルマザーは、「ワーキングプアの代表」と言われます)。おかしいと思いませんか?

 

 このことに直接言及している回答は、残念なことに、ありませんでしたが、行田さんは、「貧困実態調査の結果を踏まえた財源・資源配分」と言っていますので、視野には入っているかもしれませんね。

 

 そして、行田さんも書いているように、子どもの貧困対策推進法が改正されました。「子供の貧困対策に関する有識者会議」においても、新しい対策について議論してきましたが、8月7日、公表されました。最近の報道で、来年度に実施する「子どもの貧困」についての調査で、指標を改善すると伝えられていますが(https://www.jiji.com/jc/article?k=2019081300871&g=soc)、それも、この会議で議論されて出てきたことです(「剥奪指標」を導入するという点も注目です)。国は、この提言を十分尊重して、大綱を策定しなければなりませんが、新しい知事にも、ぜひ敏感に反応してもらいたいと思います。